VIPピン応用のピンレッジのBridge



 
 
 

V.I.P.ピンテクニツクについて
北海道歯科医師会学術大会抄録より
札幌 山口歯科 山田 雅昭,栂安 秀樹
札幌歯科医師会会員 山口 三郎
1. はじめに
 ピンが修復物の維持として使用されたのは1800年頃からである。そして色々なタイプのピン維持法が開発,改良されてきた。しかし,最近に至るまで技術的な制約,器具,材料の不足などから,ピンによる完全な維持はあまり期待されなかった。しかし近年色々な材料の発達,改良がめざましく,修復にピンの使用が十分に行われるようになってきた。
 印象材について考えれば,ハイドロコロイド,シリコンラバー,チオコールラバー,などによって精密な印象がとれ,正確な模型の作製が容易になり,またツイストドリルが0.001インチ差で各種サイズのものが形成できるようになった。鋳造方法の改良によって模型上で正確な口腔内を再現することが可能になり,鋳造物の適合が精密にできるようになった。
 今回,私達山口歯科に於いて,ピンテクニック(特にWhaledent杜のV.I.P.ピンを使用して)を応用して臨床上多数の良好な結果を得られたので,その概要をまとめたいと思います。 

2. ピンの歴史
 ピンが歯科の修復物として使用されたのは1800年ごろからである。
 矢崎氏によると,Farthermore(1879),Litch(1880),などによって有釘インレイが発表されたとなっている。しかし,これは広義のPinのことであり,現在,Post Inlayと称しているものである。
 ピンホールによる保持の考案は,Hinman(1906)が舌面に3本のピンを持つ支台歯形態を発表している。これは現在のピンレッジの原型とも言えるものである。Burgess(1915)が生活支台歯を対象として舌面にピンホールの保持を求める支台形態にピンレッジという名称を与え,色々と分類した。
 その後Doxtater(1951),Gillett,Irving(1932)らなどにより,多くの変型や改革がなされてきた。Iwanson(1934),LeHuche(1951)らが形成について詳細に研究している。
 また,日本では石原,尾花(1955)によって歯冠歯質の薄い日本人歯牙に対して合理的なピンレッジの形態を考案した。
 Markley(1958)はピンホールより0.002インチ小さいらせん型ピンを,セメントする方法を発表した(CementedPin)。Goldstein(1966)はピンホールより0.001インチ大きいピンを挿入する方法を考えた(Friction−locked Pin)。
 Going(1966)は, ピンをねじ込む方法を考えた(Self−Threading Pin)。
 以上のように色々な改良が重ねられて,今日に至っている。最近ではピンホールを形成するだけではなく,印象,ろう型まで一貫した,合理的なピンシステムか開発されている。 
1.ピン維持に関する考え方 

≪天然歯質の保存≫
 ピンの強い推持によって,健全な歯質の犠牲を最小限にして,損傷をうけたり,弱った歯を適切に修復するのが第1の目的である。
 通常の窩洞形成では,維持形態,便宜形態及び抵抗形態のため,かなりの健康歯質の削除を要する。ピンを使用することによって,歯質の削除を最小限にして必要かつ十分
な維持カが得られる。
 更に,十分な歯冠部歯質がなくても維持のためピンが使用される。固定性のBridgeの支台歯にも,ピンを応用することにより,歯質の削除量は最小ですむ。
 また,前歯部の天然歯の審美性が損なわれなくてすむ。これは,咬合面,舌面の削除量が少くてすむからである。これによって天然歯の形態を変えないで,歯と歯周組織の健全な関係を保つことができる。 

 ≪ペリオとエンドヘの応用≫
 歯肉の退縮している歯牙,及び歯周治療後勤揺している不安定な歯には,ピン維持による修復物が最も適している。ピン維持で歯を固定すれば動揺歯が安定し,しかもFullCrownよりピンとアンレーを応用することによって歯質の削除量はかなり少くてすむ。
そして歯牙のプラーグコントロールが容易になる。また歯内療法の終った前歯にも,ピンが応用される。 

 ≪支台歯への応用≫
 支台歯の形成にピンを応用することにして,歯質の削除量及び形態がかなり変化してくる。例えぱ,アンレーの場合には咬合面を削除した後,適当な部位にピンホールを形成することによって,十分な維持と強度をもってくる。 

 ≪修理への応用≫
 ボーセレン部がはがれたメタルボンドなどは今までは作り直しになることが多かった。
しかし,ピンを応用することによって新しくポーセレン部のみの修復が可能になってくる。
また,Bridgeの隣在歯が何らかの理由で抜歯された時,そのBridgeを新しく作りかえてしまわなければならない。しかし,ピンを利用することによってそのBridgeそのものを,支台歯として応用することが可能である。 

4. ピンの理工学的性質について
 ピンの維持については色々な条件が考えられる。維持力は,ピンの数,長さ,直径,表面状態,方向,寸法のあそび,及び合着用セメントなどによってかなり影響を受ける。
 例えばピンの数にしても数が多くなるほど,強い維持が得られるが平行性の間題が生じてくる。臨床的には1〜4本の間で使用することが多い。ピンの数は修復物にかかる力,及び各支台歯の負担能力を評価して決定する。ピンの長さについては,セメント,表面性状,直径,及び寸法のあそびによって維持力がかなり増減するが,臨床的には2mm前後が適していると思われる。
 ピンの表面は滑沢なもの,節状のもの,段状のもの,螺旋のついたものなどがある。滑沢なものは合着用セノントから離脱するのに抵抗が少ないので維持力は小さい。節状,段状,及び螺旋型ピンはより維持が強い。寸法のあそびは維持修復の上で最も重要なもので,ピンの直径とピンホールの直径の差は, 0.002インチを越えてはならないとされている。又,大きすぎると維持力が減少し,小さすぎると修復物の挿入が困難になる。
 以上のように,1つのピンについてもピン維持修復物のデザインに科学的な裏付けが必要となる。 

 ≪ピンの表面の状態による維持力≫
 ピンは基本的には2種類ある。その1つは鋳造によって作られるもので,表面が比較的滑らかな面をしている。もう1つは螺旋型あるいは,節決の表面性状の不規則な既製の貴金属でできている。前者は,Shooshanによって導入されたもので,ナイロンピンを用いておりこれを,WaxPattarnに用いてそれを焼却後鋳造しで修復するものである。後者は,既製の貴金属で金合金,白金パラジウムあるいは,白金イリジウムでこれを埋没する。この金属は融点が高く酸化しないので鋳造用金合金と一体となる。
 Moffa&Phillipsの実験結果によると螺施型既製のピンと滑沢な鋳造ピンの維持カを比較すると,前者が後者より20〜30%強いことがわかる。離脱したピンを比較すると滑沢なピンの表面には,ほとんどセメントが付着していないことがわかった。すなわち,ピンとセメントの間に嵌合力がなかったからである。螺旋型ピンの表面にはセメントが同筒形に付着している。これは,セメントがピンの不規則面に機械的に嵌合することによるものである。 

≪ピンの長さと直径による維持力≫
 セメント合着したピンの引張り強さと,ピンの直径,及び長さとの関係はピンの長さと維持力に比例関係があることがわかっている(図表1)。
(図表1)
 また,直径と維持力との関係においては,0.55mmと,0.65mm径のピンの間には,大きな差はみられない。しかし,0.75mmのピンは維持力がかなり大きなことがわかる。太いピンの維持力が増加するのは,このピンの表面積が増加するのも関係あるが,それより直径が大きくなることによって,ピンそのものの強度が強くなるためである。そのため0.75mmのピンが最大の強さを発揮する。
 臨床的には,力が歯軸方向以外に種々の方向に力が加わる。したがって,直径の大きいピンを用いることによって,抵抗カが大きくなる。しかし,ピンを立てる歯牙は生活歯か多いので歯髄に穿孔するおそれがある。そのような時は0.65mmと0.55mmピンの維持力にそれ程の差がないため,0.5mmのピンを用いても良いと考える。 

 ≪裏装剤とピンの維持関係≫
 生活歯に応用することの多いピンでは,どうしでも歯髄とピンが近接することが多い。窩洞を完全に射鎖する修復材はないので,ピンの周囲には徴少漏洩がおこり,その拮果2次う蝕,知覚過敏,歯髄え死などの原因となる。ここで裏装剤が必要となる。Copal varnishや水酸化カルシウムなどがある。
 裏装剤によって維持力の変化をしらべた研究によると,Friction−Locked pin,Self−Threading Pinの場合は,裏装剤を用いても維持カには,大きな変化はない。しかし,Cemented pinの時は,維持力が46%減少するこ上がわかっている。Fricton−Lockde pin、self−threading pinは,セメントの合着より象牙質の弾力がピンを保持しでいる。しかしCemented pinの場合は裏装剤を用いると,象牙質面が滑らかになって維持が極端に減少する。 

≪Dento−Enamel Junctionとピンの位置関係≫
 ここて問題になるのは,ピンの位置をどこに置くかという点である。エナメル質,象牙質の弾性は象牙質の方が,かなり弾牲率が低い。これは弾性率が低いほど,応力に対する歪みが大きいことによって,歯質の亀裂がおきにくいことになる。
 ピンを立てるにはエナメル質には無理でDento−Enamel Junctionの部位におくことも危険が伴う。
 Dento−Enamel Junctionと3種類のピンホールとの位置関係をしらべた研究がある。それによると,Cemented pin、Friction−locked pin、Self−threading pinの3種類のピンを使用して,それぞれピンホールの位置をDento−Enamel Junctionから,0mm,0.5mm,1.0mmの幅で深さ2mmに形成したものである。これによって,ピン形成により生じる亀裂の有無を調ぺたものである(図表2、3)。Cemented−pinは象牙質に歪みを与えないので亀裂発生がもっとも少ない。
 Friction−locked pinをDento−Enamel Junction近くに形成したものが, もっとも危険が大きい。Friction−locked pinはピンを挿入する時,マレットでピンを挿入するので亀裂が生じる可能性か強い。Self−threading pinの時,Junction部位に亀裂が生じる可能性があるが,0.5mm〜1.0mm離れると亀裂は生じない。
これは,象牙質にねじり込むので亀裂が発生しずらい。今回使用しているV.1.P.ピンは,この結果より少くとも,0.5mm以上離して使用することが望ましいと思われる。 

≪ピンの長さと維持力≫
 ピンが象牙質から引抜くのに必要な力と,ピンの長さによる差についての研究がある(図表4)。
(図表4)
 それによると,Cemented pinの維持力は長さと直線的比例関係がある。Friction−locked pin、及びSelf−threading pinでは維持力と長さに直接的関係がない。これらのピンでは.ピンの長さが2mmを越えると維持力の割合か滅少する。Friction−locked pinはピンを破壊することなくはずすことができるが,Self−threading pinでは,細い方 (0.023inch)が2mm以上,象牙質に埋入すると,引抜く時破折する。太い方(0.031inch)では,2mm以上の深さになると象牙質が破折する。これから,Self−threading pinは,長さ2mmが適当であることがわかっている。 

5. ピンの位置と歯牙歯髄の関係
 ピンホールを形成する時,特に注意しなければならない点は,歯髄との位置関係である。
 すなわち.ピンホールの位置は,Dento−Enamel Junctionより,0.5mm以上離れた状態であればよいが,離れすぎていると歯牙の歯髄に接近することになり,その結果,歯髄刺激となって,術後の不快感があらわれることになる。歯髄の大きさ,位置は歯牙年令,歯牙の種類により,またう蝕の進行,充墳,刺激,摩擦などによって大きく変化している。次に個々の歯の歯髄腔形態とピンホールの位置関係について考えてみる。 (図.1,2)
a)上顎中切歯,側切歯
上顎中切歯の歯髄腔は,歯冠形態と類似しており,歯髄腔は唇舌的に峡く近遠心的に広い。ピンホールの位置は唇舌側エナメル間に、2mm幅の象牙質のある部分で切端に近い所につける。起始点は,Dento−Enamel Junctionより1mm以上内方に入らない方が良く,歯頸部はできるだけ基底結節におく。ピンは2本以上がよい。
 上顎側切歯は,上顎中切歯の形態と似ているが,小さく厚みがないので,露髄する危険性があり,X線フイルムなどで確認してから注意してピンホールを形成しなければならない。
b)上顎犬歯
 上顎犬歯の歯質はかなり多いので,ピンホールの位置,角度はかなり自由がきく。ただし犬歯には咬合カが加わるので,ピンは太めのものを,2〜3本立てる必要がある。
(図.1)
c)上顎第1,第小臼歯
 第1小臼歯の髄腔は歯冠をそのまま縮小した形であるから外形と一致している。近遠心的に圧遍が強い。咬頭に一致して2つの髄角がみられ,頬側咬頭の髄角が長い。歯根が分岐していても,分岐しなくても根の近心面は凹わんしていて,髄腔近遠心部の象牙質では,ピンの挿入がある程度制限される。この歯はほぼ垂直に萌出していて,大部分の位置で思いどうりの深さのピンを挿入できる。咬頭先端には,ピンを立ててはいけない。
 上顎第2小臼歯は,第1小臼歯とよく似ているが形態が小さく髄角の突出が少く,穿孔する危険が少ない。ここも咬頭先端にはピンを立ててはいけない。
d)上顎第1、第2大臼歯
 上顎第1大臼歯の髄腔は歯冠の外形に一致して頬舌径が近遠心径より長い立方形であり高径がもっとも小さい。髄角は咬頭と一致し4個で,近心頬側髄角が最も大きく,遠心舌側髄角がもっとも小さい。
 ピンの位置は,比較的自由に立てられるが近心頬側髄角は,他の髄角より隅角部に近くピンを立てない方がよい。また咬頭先端にもピンを立ててはいけない。 上顎第2大臼歯は,上顎第1大臼歯と同じであるが,やや髄角が小さい。しかし,変形が多いのでレントゲン写真で十分に確認する必要がある。
e)下顎中切歯,側切歯
 上顎切歯と同様に歯牙の外側をそのまま縮小した狭い歯髄腔である。髄室は,唇舌面からみると方形,近遠心面からみると三角形であり,上端は2個の髄角がみられる。このため,ピンの位置はかなり制限される。切端近くにはピンを用いてはならない。舌側歯頬線近くのピンホールは基底結節上より側方に設定する。ピンは直径の小さいものを用いる。
f)下顎犬歯
 上顎犬歯と同様,髄室は尖頭に向い突出し1個の髄角をなし,唇側よりみれば,つぼみ形,近遠心よりみれば三角形である。歯冠部の象牙質は厚く比較的自由にピンをたてることができる。
g)下顎第1,第2小自歯
 下顎第1小臼歯は歯冠の外側と一致し頬側からみると,棒状,近心側からみると犬歯に似てぼう垂形である。なお舌側咬頭の発育が悪いため,舌側髄角はみられない。 ピンの位置は,4つの隅角部が良い。頬舌壁の中央部は髄角と髄腔か卵円形であるためさける。舌側に髄角がないので舌側にピンを用いてもよい。
 下顎第2小臼歯は,舌側咬頭の発育が良好なため,第1小臼歯と異なり頬側,舌側髄角がみられる。ピンの位置は第1小臼歯と同様に4つの隅角である。
h)下顎第1,第2大臼歯
 下顎第1大臼歯の髄腔は歯冠の外形を縮小した形で全体として立方形であり,頬舌径に比べ,近遠径が大きく,上下線がもっとも小さい。髄角は,各咬頭に向い4〜5個突出している。特に,近心頬側髄角が下顎臼歯では最大である。ピンの位置は,4つの隅角部がよいが髄腔の形態から近心頬側隅角部は注意が必要である。そのため,ピンの位置はやや頬側遠心より形成した方がよい。咬頭直下にピンを形成してはいけない。
 下顎第2大自歯は第1大臼歯とほとんど同じ立方形である。ただ,遠心咬頭の退化が著しいため,髄角は4個である。ピンの位置は,第1大臼歯と同様である。 

6.V.I.P.ピンの特徴と術式
 Whaledent社のV.I.P.ピンは,ピンホールの形成から印象,仮封,鋳造用ピンまでワンパツケーシになっている。今までは,ピンレッジなどの鋳造体を作る時,例えばナイロンブリステルなどはかなり複雑な工程が必要で簡単なものではなかった。しかし,V.I.P.ピンを使用することによって,これまでの工程がシステム化され,使用方法も簡素化されるようになった。 (図.3,4)
 パッケージの中には,
1.ツイストドリル(ピンホールを形成するもの)
2.印象用プラスチックピン(印象時の概成ピン)
3.仮封用スチールピン(ピンホールを仮封するもの)
4.貴金属ピン(Waxupの時,そのまま使用する)・
以上の器具が入っている。次に,その特徴と術式を簡単
にのべてみる。
(a)ツイストドリルの性質
 ピンホールを形成するには,ツイストドリルを使用する,このツイストドリル効果を十分に発揮するには,その形態と機能について十分知っておく必要がある。一般にツイストドリルを使用方法は,
1.200speedの回転で使用する。
2.ツイストドリルは,象牙質及び金属内のみで使用し,ほうろう質を削ってはいけない。
3.ツイストドリルの回転は,時計方向のみで,その時に切削される。
 ツイストドリルは先端に2枚刃がある。この2枚刃が中央から等距離にあり,極めて精密につくられている。縦溝のらせんは,ピンホールを形成するとき生じる切削片を排除できるようになっている。このツイストドリルを使用して,ピンホールを形成する時の回転は超低速で,この時ほとんど発熱せず効果的に削れるため,水あるいは空気による冷却は不要である。ドリルは,軸方向にまっすぐ均等に圧をかけ形成が終わってから,ピンホールよりドリルを取り出すときも回転させながら静かに引抜く。横から力を急に加えると,ツイストドリルが折れてしまうことがあり,又,エンジソを止めて引抜く時も同様のことがおこる。又,ツイストドリルを回転させながら,出し入れすることはピンホールが大きくなりすぎるので避けるべきである。
 ツイストドリルには,種々の大きさのドリルがある。通常のツイストドリルの大きさは0.6mm,0.7mm,0.8mmの3種類である。最も使用されるのは,0.7mmである。0.6mm,0.7mmは前歯に使用し,0.7mm,0.8mmは臼歯用に主に使用される。
 V.I.P.ピンでは,直径をわかりやすくするため,色分けしたツイストドリルを使用している。0.6mm(0.024inch)は黒であり,0.7mm(0.028inch)は緑であり.0.8mm(0.032inch)は,青である。この色分けしたドリルを,Kodexと呼んでいる。
(b)エンジンについて
 ツイストドリルでピンホールを形成するには電気エンジンを,使用する。比較的回転の速いエンジンには,1/10減速コントラアングルを,使用するとよい。トルクも強くなり,ツイストドリルのぶれも少ない。
(c)誘導孔の形成
 象牙質にピンホールの位置を鉛筆でマークし,No.1/2ラウンドバーで低速回転させて印の部分に,凹みをつける。これが誘導孔である。
 この誘導孔によってツイストドリルは横ぶれが防げる。ほうろう質では, No.1ラウンドカーバイドバーを注水下で高速回転させて,象牙質まで完全に穿孔する。
 金属に誘導孔をつけるにはNo.1/2ラウンドカーバイドバ一を注水下で高速回転させて形成する。
(d)ピンホールの形成
挿入角度は部位が決定してから決める。歯軸に平行にドリルを挿入し,一度決めた方向を基準に,他のピンホールと平行に形成する。
 また,正確なピンホールを形成するには,まず小さな直径のドリルでピンホールを形成して,その後,大きなツイストドリルでピンホールを拡大して形成することができる。
(e)ドリルの扱い
 ドリルを使用していて破折した時は,歯牙から除去するのは不可能である。その時は破折片は,そのままにして隣に新たにピンホールを形成する。そして,破折片を残したまま上から被覆する。
 使用後のツイストドリルの清掃は殺菌液で消毒する。加熱消毒すると切刃が鈍くなるので注意すること。   
(f)ドリルとピンの大きさの関係
 V.l.P.ピンでは,ツイストドリルと関接印象用のピンと既製の責金属ピンがそれぞれ,だんだん小さな直径になっている。
 間接印象用のプラステイグピンは,ツイストドリルより0.001イソチ小さくて,さらに既製の貴金属ピンは印象ピンより0.001インチ小さい。これによって,ピンホールと既製の責金属は合着の時セメント層が一層介在する。
 V.1.P.ピンを使用する時には,ドリル,印象用ピンなどには,各太さごとに色分けされていて,ピンを簡単に見分けることができるようになっている。  

(図表5) V.I.P.ピンの種類
No,太さ、(色)0.6mm(黒)(0.024inch) 0.7mm(緑)(0.028inch) 0.8mm(青)(0.032inch)
ツイストドリルの太さ  0.6mm(0.024mm)  0.7mm(0.028mm) 0.8mm(0.032mm)
印象用ピンの太さ 0.58mm(0.023inch) 0.68mm(0.027inch) 0.78mm(0.031inch)
貴金属ピンの太さ 0.55mm(0.022inch) 0.65mm(0.026inch) 0.75mm(0.030inch)
用途       主に前歯用     前歯小臼歯用     主に大臼歯用 

7. V.I.P.ピンの臨床例について
今度は実際の臨床例について延べてみます。私達は過去1年ほどの間において約百本以上のV.I.P.ピンを応用してきました。
 ピンをたてる位置方向などは術前にスタデーモデル,X線撮影などによって歯髄との位置関係,歯質の強度などを十分に検討する必要がある。その桔果,臨床的不快症状・歯牙の破折・ピンの離脱などのトラブルは,現在殆んどありません。但し生活歯に応用した時,一時的な冷水感は一部分の症例にあったが覆トウ剤や刺激の少ない合着剤,あるいは薬用セメソトなどを使用する事によって数日から1,2週間程度で軽減した。特にピンの離脱は、皆無であった。又,何らかの理由で,一度合着したピンをはずす時はピンを切断しなければ取り除く事は不可能であった。
 これは, ピンを応用する事によって維持カが飛躍的に強くなるという事である。
症 例 〔1〕
 とかくInlayは弱い維持力のため脱落する事が多いが,ピンを応用する事によって,いわゆるはずれないInlayが出来る。
Inlayの他にも強い維持力をもったAnlayとしても十分に応用する事が出来る。
 さらに,歯冠高径の短い歯牙にも支台歯として使用する事が出来る。
症 例 〔2〕
 図.7,8はBridgeへの応用例で患者は,43才の女性で,装着後6ケ月経過した,F6DのGold Bridgeである。
術前は,7に不適合なCrawnが入っており,6はC4で,抜歯する必要があった。
 しかし,5は健全歯で骨植も良好な歯牙であるため患者の希望をとり入れ,審美性を考慮して,5の歯質の保護と強い雑持カを求めるためピンインレーを応用したものである.
 この場合,ピンばInlayの窩洞の近心に1本形成した。6ケ月を経過した現在もピンの離脱や冷温水痛,歯牙の動揺などの臨床的不快症状はみあたらなかった。又,ロ腔内の清掃状態も良好であった。 

症 例 〔3〕
 図. 9,10,11,12は, アタッテメントの支台装置の応用例です。
(図.12)
 患者は,25才のOLの女性で,76が欠損で54支台歯として,ダルボーアタッチメントを装着したケースです。
 患者の口腔内の清掃状態は良好で,残存歯牙は健全歯でCariesや歯周組織の異常は認められなかった。
 一般的には,54の支台歯としてはFull−Crawnにするか、3/4冠にする事が多いが,今回は審美性,維持力,歯質保護などを,4考えピンインレー,5を3/4冠としてこれにダルボーアタッチメントを連結した症例である。
 これも4の近心にピンを1本たてたものであるが,これによって口腔内に装着した時,金属の露出は殆んど見られなく,審美性の点から良好な結果が得られた。
 他の応用例としては,歯周疾患において,歯牙の連結固定装置としてピンを応用する事もできる。又,有床義歯において,人工歯の吸合面を金属に置き換える時にもピンを使用して強い維持力で合着できるようになる。 

 以下V.I.P.の特徴をまとめると,
1.天然歯質の保存
2,歯周疾患歯への応用
3.維持力の増大
4.技術的な操作の容易性
5.補綴物の適合性
6.審美性
7.経済性
等々がある。
 以上のように私違がV.I.P.ピンを使用して多数の臨床例について延べた事が,今後臨床医の先生方の日常の冶療になんらかの形で応用されることになれば幸いです。
 最後に,CDC会長峯田先生の御指導,御援助に対して厚く御礼を申し上げます。そして,山口歯科のスタッフー同の協カに感謝する次第であります。
 

症 例 〔1〕

  症 例 〔2〕

症 例 〔3〕
 

 なお、写真・図表などは一部省略しています。
北海道歯科医師会学術雑誌より抜粋。