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〜 北海道・Y歯科 〜
「基本的に患者さんを待たせることはしたくないけど、そうもいかない場合もあります。そんな時に、くたびれた週刊誌を読んでもらうのは患者さんに失礼だと感じていました」と語るY院長。「どうせ置くなら、歯に関係する本を読んでもらおう」と歯に関する一般図書、「歯の本」を収集してきました。当初は月に5〜6冊づつ買い揃えてきた蔵書、100冊位を置いていました。開業26年間で今では蔵書は660冊。現在でも蔵書は月に2〜3冊増加し続けています。5年目位からは、「待合室だけでは読み切れないので貸して欲しいという」患者さんの要望で、貸し出しも始めました。特に返却期限は設けていませんが、貸し出しカードを作って管理していますから、これはもう立派な「歯の図書館」という趣きです。蔵書の中には、かなり昔の考え方で書かれた本もありますし、Y歯科医院の考え方とは違う本もあります。そうした、本にはY院長がコメントを付けて、患者さんを混乱させることのない様に心配りされています。 貸し出し記録から見ると、子どもたちに人気があるのが「アンパンマンとハミガキマン」、「みがけデンたん」といったコミック。大人はインプラント(人工歯根)や歯槽膿漏(歯腐病)などに関する本、最近は時代を反映して歯を美しくするためのエステティック本や口臭予防について書かれている本などです。Y院長によれば「歯の図書館」の効果は予想以上でした。「当然歯に興味を持ってくれますよね。それから説明する時に非常に説明しやすくなった。やっぱり知識を患者さんも持っているということは、治療を進める上でやりやすいですよ」。患者さんに治療の方針や内容を説明することは、患者さんの自己決定権の前提です。「でも、患者さんが選択をするための知識や情報を医院の側が公開、提供しなければ、本当の意味で患者さんの意思が反映されたことにはならないと思うんです」とY院長は患者さんが学習することの意義を強調します。 「患者さんが学習することで、医師や衛生士との共通の認識が出来上がり、患者さんが積極的に質問できるようになります。その結果、スタッフとの豊かなコミュニケーションが生まれます。その中で、私たち医院サイドがいいと思ったものと患者さんのニーズのズレも見えてきます。特に自費治療の選択を患者さんに薦める場合には、こうしたプロセスが不可欠だと思うんです」。Y歯科医院では、「歯の図書館」が自費治療を薦めやすい環境作りに一役買っているのです。 さらに「歯の図書館」は、スタッフの学習という面でも好影響を与えているとY院長は言います。「患者さんが学習するわけですから、私を含めて医院スタッフはその上のレベルでなければ何の説得力も持ちません。ですから待合室に置く本は、全員が読むわけではありませんが、エッセンスはスタッフ全員が共有します。また患者さんにお渡しする資料は担当スタッフがその患者さんに必要なものを作成します」。さらに健康雑誌や新聞記事などの歯科関連記事をチェックして、患者さんから問い合わせがありそうな記事については、「朝のミーティングで取り上げて内容を確認し、スタッフ全員で対応も話し合う」ことは、当たり前のこととして行われています。 実際、Y歯科医院の患者さんは、歯科に関する様々な新聞記事や情報に機敏に反応するのです。例えば「歯科治療用の充填材/環境ホルモン溶出」という新聞報道(2001年)の際にも、この報道に関する問い合わせがありました。そこでY歯科医院では、事実関係を調査して学習会を行い、問い合わせてはいない方を含めて全ての患者さんに対して、「無害であることの説明」に努めました。歯科医療にとってマイナスの報道にしっかりと誠実に対応したことで、患者さんからの信頼を逆に高めたとY院長は言います。 学習する患者さんと学習するスタッフ。その間で交わされる良質のコミュニケーション。これらのキッカケを作ったのは、月に5〜6冊から始まったささやかな「歯の本」の収集です。これが「歯の図書館」として患者さん認知されるに従って、「学習型医院」というY歯科医院のコンセプトが自然に作られていったのです。確かにこの背景には、北海道という雪深い地域に根付く「読書の文化」があったと言えます(現にY歯科医院にほど近い古書店のレベルの高さには驚かされました)。歯科医院の待合室で、一般の雑誌と歯の本が「何となく」置かれている光景を目にすることがあります。学習意欲の高い患者さんは、「何となく」置かれた雑誌や本を通して、「この医院は待合室での時間を単に暇つぶしと考えているな」と感じているかも知れません。もちろん、単に「暇つぶし」をしたい患者さんもいるでしょうが、それには別の方法でリラックスした待合室環境を提供できるはずです。Y歯科医院の「歯の図書館」は、同じ経費を待合室の本にかけるのであれば、「歯に関するおもしろい本」のみを提供することで、医院と共に成長できる意識の高い患者さんを発見できるという可能性を示しているのではないでしょうか。 |
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